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京都地方裁判所 昭和54年(ワ)836号 判決

原告

鈴木吉春こと金東仁

被告

京都府

主文

被告は原告に対し金三一万六二五四円及び内金二八万六二五四円に対する昭和五二年三月二日から、内金三万円に対する昭和五六年一〇月一三日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを六分し、その五を原告の、その一を被告の各負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

被告が金三一万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告は原告に対し二〇二万二六四〇円及び内一八七万二六四〇円に対する昭和五二年三月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

全部または一部敗訴のとき仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は大韓民国人であるが、昭和五二年三月一日午後一時四五分頃自己所有の大型貨物自動車(総重量二九トン。以下原告車という。)を運転して京都府綴喜郡田辺町大字水取小字御家府道東畑井手線(以下本件道路という。)を西進中折から大型貨物自動車が対向してくるのに遭遇し離合するため止むなく自車を府道南端に寄せて停止したところ、道路南側部分と路肩が軟弱で整備されていなかつたため原告車を支えきれず、後輪位置部分の車道と路肩の一部が幅約〇・一五メートル、長さ約一メートルに亘つて崩れ落ち、次いで前輪位置部分の車道と路肩の一部が同程度崩れ落ち、そのため原告車は府道南側の普賢寺川に転落した。

2(一)  崩壊したのは被告の管理する道路である。

(二)  右事故は本件道路の管理の瑕疵により発生したものである。

本件道路は大阪府枚方市方面へ抜ける幹線道路で貨物自動車の通行量が多く、貨物自動車が双互に離合するには路肩部分まで寄せざるをえない道路幅であるのに、道路南側部分はアスフアルト舗装が道路端まで施してあるけれども土留めはなく基礎は軟弱で直接普賢寺川の堤防になつていていつ崩れ落ちるとも分らない状態で放置されていた。

3  損害

(一) 修理代 八八万一二七〇円。原告車の修理に要した費用。

(二) クレーン代 一〇万円。原告車を川中から吊上げるに要した費用。

(三) 休車補償 七四万一三七〇円。原告は原告車を所有し厳本金属株式会社の鉄屑等の運輸を請負つていた。その一日当りの純収入は一万五一三〇円、修理期間は昭和五二年三月一日から四月一八日までの四九日間、その間の休車補償額。

(四) 弁護士費用 三〇万円。原告は訴訟代理人に着手金一五万円を支払い、第一審判決言渡日の翌日に謝金一五万円を支払うことを約した。

4  よつて原告は被告に対し、二〇二万二六四〇円及び内一八七万二六四〇円に対する本件事故後である昭和五二年三月二日から完済に至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実のうち、原告が道路南端に停止したこと及び道路南側部分が整備されていなかつたことを否認しその余は認める。同2(一)の事実を認め、同(二)は否認する。同3の事実は知らない。

2  原告は、道路法四七条、同条の二、車両制限令三条に違反して本件道路を通行制限されている重量超過の車両を無許可で、かつ保護路肩部分にはみ出して通過した。被告にはこのような通行を予測して保護路肩を補強すべき責務はない。

また、原告は路肩を通行しなくとも離合できたし、現場付近には路肩注意の標識がたてられており路肩が崩れ易いことを認識していながら、運転の未熟と不注意により路肩を通過し事故を起したものである。

原告主張の逸失利益は自家用車の有償運送禁止(道路運送法一〇一条)の規定に違反し不法に収益することによるもので法の保護に値しない。

第三証拠〔略〕

理由

一  (国家賠償法の適用)原告は、国家賠償法二条に基づく救済を求めるものであるところ原告が大韓民国の国籍を有する外国人であることは当事者間に争いがなく、外国人が同法の適用を受けるには同法六条に規定する相互の保証があることを必要とするところ、大韓民国の国家賠償法(一九六七年三月三日法律第一八九九号)は審議会前置主義をとり(同法九条)賠償額を比較的低額で定額化している(同法三条、同法施行令(一九六七年四月一三日大統領令第三〇〇五号、一九七〇年二月二五日大統領令第四六六四号))けれども相互保証制度を採用している(同法七条)といえるから、原告は日本国の国家賠償法による損害賠償請求をなしうるというべきである。

二  (事故の発生と被告の責任)昭和五二年三月一日午後一時四五分頃京都府綴喜郡田辺町大字水取小字御家、府道東畑井手線において原告車(総重量二九トンの大型貨物車)が西進中対向してくる大型貨物車と離合するため道路南端一杯に寄せた際後輪位置部分の道路南端の一部が幅約〇・一五メートル、長さ約一メートルに亘つて崩れ、次いで前輪位置部分の道路の一部が同程度に崩れ落ち、その結果原告車が普賢寺川に転落したこと、及び右道路が被告の管理する道路であることは当事者間に争いがない。

右事実と成立に争いのない甲第二六号証、乙第一、第二号証、昭和五二年五月頃原告が事故現場付近を撮影した写真であることに争いのない検甲第一ないし第六号証、昭和五五年一月九日頃原告が撮影した現場写真であることに争いのない検甲第七、八号証、昭和五二年三月頃鈴木光夫が撮影した現場写真であることに争いのない検甲第九ないし三六号証、昭和五二年三月一日田辺土木工管所職員が撮影した写真であることに争いのない検乙第六号証、証人大冨照夫の証言により事故現場付近の写真であることを認める検乙第一ないし第五号証、証人大冨照夫、同宮里芳男、同梨木夫の各証言、原告本人尋問及び検証の各結果を総合すると、次の事実を認めることができる。

本件道路は、京都府綴喜郡田辺町と大阪府枚方市とを結ぶ京都府道で、幅員六メートル弱、アスフアルト舗装で道路北端にはコンクリート側溝があり路肩部分はコンクリート擁壁となつていてその北側は田圃である。道路南側はアスフアルト舗装部分が道路端まであるが土留めはなく基礎部分は土を固めただけで雑草が生えていて軟弱で地肌がみえており道路自体がその南側を流れる普賢寺川の堤防となつている。道路南北両端共に路肩区域を表示するものはなく、事故現場の約二〇メートル西方道路南端に「路肩注意」の立札標識が西向きに立てられていた。本件道路は、国道三〇七号線とほぼ平行しているが同国道の一部区間で大型車両の西行走行を禁止していることもあつて貨物自動車の通行が多く、原告車もこれまで頻繁に利用していた。

原告の車両重量は九・五九〇トン、総重量は二九トン(ただし、法定最大積載量一〇トン)、車両幅は二・四八メートル(ただし、サイドミラーが車体から両側に幾分張り出している。)である。

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、国家賠償法二条にいう設置または管理の瑕疵とは営造物が通常具備すべき安全性を欠いていることをいうものと解するのが相当であり、道路管理者は道路を良好な状態に保つよう維持し道路の破損、欠壊その他の事由により交通の危険が容易に予測される場合は直ちに補修すべきは勿論事故発生を防止するため具体的に明示して区間を定め道路の通行を制限し、あるいは道路の構造上危険が予想される個所にはその具体的事情に応じ標識その他の適切な措置を構ずべき責務があるものというべきである。このことは、道路の一部である路肩についても同様であつて、路肩が道路の主要構造部の保護と車道の効用を保つことを主目的とし、道路を通行する車両はその車輪を路肩にはみ出さないようにしなければならないとされている(車両制限令九条)けれども路肩部分にはみ出して通行する車両のあることも容易に予測しうるところであつて右法令が置かれていることによつて路肩の構造に欠陥があることを許すものでないことはもとよりである。これを本件についてみるに、前記事実によると、本件道路は同法二条にいう営造物に該当し被告の管理にかかるものであるところ、被告は本件道路の管理者として通行が予想される車両を持ち堪えうる構造を維持する必要があり、前記のとおり道路南側端部分の基礎が軟弱で道路表面は南端までアスフアルト部分が覆つているが路肩部分を示す標示もなく、また「路肩注意」の立札が道路南側に立てられていたけれども西向きになつていて西進車から立札の文字を読み取れない状況にあり道路の整備管理に不十分なところがあり、ロープを張つて車両が南端部分に進入しないようにする等危険の発生を防止すべき適切な措置も構じられていなかつたから、その設置管理に瑕疵があつたものというべきである。

もつとも、道路法四七条は、「道路の構造を保全し又は交通の危険を防止するため道路との関係において必要とされる車両の幅、重量、高さ、長さ及び最小回転半径の最高限度は政令で定める。

政令で定める最高限度を越える車両は通行させてはならない。」と規定し、これを受けた車両制限令三条は、その最高限度として、幅二・五メートル、総重量二〇トン、軸重一〇トン、輪荷重五トン、高さ三・八メートル、長さ一二メートルと定め、道路法四七条の二では、「道路管理者は車両の構造又は車両に積載する貨物が特殊であるためやむをえないと認めるときは当該車両を通行させようとする者の申請に基づいて通行経路、通行時間等について道路の構造を保全し又は交通の危険を防止するため必要な条件を付して通行を許可することができる。」旨規定しており、原告において右許可を得ていないことは原告において明らかに争わないから自白したものとみなすべきところ、本件では原告が無許可で本件道路に限度総重量二〇トンを九トン超過する大型貨物車を乗り入れその右側前後車輪を同時に路肩上にはみ出し道路南側端部分一杯を通行しようとして路肩部分の崩壊を招き転落したのであり原告にも重大な責任があるものといえるけれども、前記のとおりの本件道路の欠陥もまた右結果に寄与していることは否定できず、これによつて原告の責任を否定し去ることはできない。

三  (損害)原告本人尋問の結果により成立を認める甲第一ないし第二五号証と右本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件事故と相当因果関係ある損害を次のとおり認めるのが相当である。

1  原告は原告車の修理費として京都市南区上鳥羽戒光町四四の二進興整備工業に八八万一二七〇円を支払つた。

2  原告は、事故現場から原告車を引き揚げるについて同市右京区西大路五条、宮川運送株式会社に一〇万円を支払つた。

3  原告は本件事故当時同市南区上鳥羽鉾立町四番地巌本金属株式会社から鉄屑等の運搬を請負い自己所有の原告車を持ち込んでこれに従事していた。諸経費を差引いた一日当りの純収入は少くとも一万円、修理に要した期間は昭和五二年三月一日から四五日間、その間の逸失利益は四五万円とするのが相当である。

被告は、右逸失利益は自家用車の有償運送による不法収益であるからこれを損害に算入すべきでない旨主張し、弁論の全趣旨によると右事実を認めることができこれが道路運送法一〇一条、一二八条の三の規定に違反する不法な使用であることが認められるけれども、右規定は専ら政策目的によるものであつてこれによつて得べかりし相当額の収益までを不当とすることはできずその現実の喪失額を損害とすることを妨げるものではない。

4  しかしながら、原告は、これまでも本件道路を頻繁に利用しており本件道路の南側路肩が補強されておらず軟弱であることは少し注意すれば知りえた筈であり、大幅に法定限度を超過して重量物を積み込んだ大型貨物自動車をこのような路肩部分一杯に乗入れて対向車と離合することは極めて危険であつたから自ら後退するか対向車に後退させて安全な場所を選んで離合すべきであつたのに敢えてこれを実行した結果本件事故を発生させたのであるから重大な過失があるものというべく、その被つた損害額の算定について八割の過失相殺をするのが相当である。従つて、前記1ないし3の損害合計額一四三万一二七〇円の二割である二八万六二五四円が原告の請求しうる損害額である。

5  弁護士費用 原告が本件訴訟の遂行を弁護士に委任していることは記録上明らかであり、本件訴訟の内容、経過、認容額等諸般の事情を勘案すれば原告が本件事故と相当因果関係あるものとして請求しうべき弁護士費用は三万円をもつて相当と認める。

なお、右損害金に対する遅延損害金の起算点は本判決言渡の翌日である昭和五六年一〇月一三日とするのが相当である。

四  よつて、原告の本訴請求は三一万六二五四円及びうち二八万六二五四円に対する本件事故後である昭和五二年三月二日から、うち三万円に対する昭和五六年一〇月一三日から各支払済みに至るまで民法所定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言、同免脱宣言につき同法一九六条一項三項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

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